担保・執行法制に関する民法等の一部を改正

  「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」が平成15
 年7月25日、参議院本会議で可決成立し、8月1日に公布されました。
  この法律は、抵当権等の担保物権の規定を整備し、かつ、担保権実行手続その他の執行
 手続の実効性を向上させるため、短期賃貸借制度の廃止、民事執行法上の保全処分等の要
 件緩和、扶養等の義務に係る債権に基づく強制執行における特例の創設等の措置を講じよ
 うとするものです。この法律は公布の日平成16年4月1日から施行されることになりま
 す。


 主な改正点
  1.雇人給料の先取特権
  2.不動産の収益に対する抵当権の効力・不動産収益執等
  3.抵当権消滅請求
  4.一括競売(民法第389条)
  5.短期賃貸借の廃止(民法第395条)
  6.根抵当権元本確定事由
  7.不動産収益執行制度の創設(法第180条を新設)
  8.保全処分の改正
  9.内覧制度の創設(法64条の2)
 10.明渡しの催告(法168条の2)



 1.雇人給料の先取特権について、
   民法第308条は雇人の給料で且つ最後の6ヶ月分についてのみ先取特権を認めてい
  ましたが、改正法は「債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権」として
  給料債権以外の債権も含まれるようになり、債権の種類と範囲を拡大しました。更に、
  「雇人」ではなく「使用人」として商法上の使用人を使うことにより広く労働者を意味
  することになりました。

 2.抵当権については、幾つかの改正点があります。
 (1)不動産の収益に対する抵当権の効力・不動産収益執行等
    抵当権は、従前は、差押後でないと果実収受権に及びませんでした。ところで、昭
   和55年の民事執行法ができる際にも、抵当権に基づく強制執行類似の制度を導入し
   ようとする議論があったのですが、旧民法371条が「前条ノ規定ハ果実ニハ之ヲ適
   用セス但抵当不動産ノ差押アリタル後・・・此限ニ在ラス」と規定し、前条370条
   (抵当権の効力の範囲の規定)を引き摺っていました。判例によれば、この規定の果
   実は天然果実を意味し法定果実には及ばない旨の判例(大判大6.1.27民録23-97)があ
   ります一方、民法第372条で民法第304条先取特権の物上代位の規定を準用して
   おります。更に、法定果実である賃料債権に対して抵当権を行使できる旨の判例(最
   判平1.10.27民集43-9-1070)が出て、民法371条及び民法第372条の整合性が
   おかしくなっていました。そこで、今回の改正371条は「抵当権ハ其担保スル債権
   に付キ不履行アリタルトキハ・・・」として前条である370条(抵当権の効力が及
   ぶ範囲)と切り離し、要件を緩和して差押さえ前でも、その被担保債権につき不履行
   があったときは、その後に生じた抵当不動産の天然果実及び法定果実にも及ぶものと
   しました。民事執行法上の新しい担保権実行方法として「不動産収益執行」が創設す
   るために、実体的規定を整備として民法第371条を改正したものです。

 (2)抵当権消滅請求
    現行法は、「滌除(てきじょ)」という制度がありました。もっとも、「滌除」といっ
   てもなんのことか不明でしょう。例えば、1億の抵当権が付いている不動産を買った
   人が、その不動産を仮に2千万円に値付けして、抵当権者に対して一定期間内にその
   値段で承諾するか否か通知します。そして1ヶ月以内に、その値段では不服であるの
   でその値段より1割以上で売却できるとして競売申立をしない限り、この値段を抵当
   権者に提供又供託すれば抵当権の抹消請求することができたのです。更に、1割以上
   の価額で売却ができないときはその増価競売の申し出をした抵当権者が引き受けなけ
   ればなりませんでした。このように不動産の時価以上に抵当権額が大きい場合に第三
   取得者は抵当権全額を弁済しなくてもその抵当権を消滅させる機会が与えられる点で
   有用であったのですが、この制度では1割以上で競売をしなければならないという手
   続きが抵当権者の過大な負担となっていることや、不当に低い金額での申し出にも応
   じざるをえないこと、更には、滌除制度は抵当権の不可分性(一部弁済があっても抵
   当権は消滅しないこと)を制約して抵当権の効力を弱めるものであり滌除制度そのも
   のを廃止する案もあったのですが、結局、滌除制度は残すことになりました。
    そこで、抵当権者の利益保護の観点からの手直しがなされました。具体的には、抵
   当不動産の取得者の範囲を所有権者に限定し、従前の地上権又は永小作権を取得した
   ものを除外しました(民法第378条改正)。更に、抵当権者が2ヶ月以内(現行法
   より1ヶ月多めにした)に競売を申し立てないときに初めて消滅のために提示した金
   額の弁済又は供託をすることができるとしました(民法第383条改正)。現行法にお
   いて抵当権者は第三取得者に対して抵当権実行の通知をしなければならなかったので
   ある(民法第381条)が、改正法はこの条文を削除して、何時にても申立ができる
   ようにしました。逆に、第三取得者の抵当権消滅請求は抵当権実行としての差押の効
   力発生前までにしなければならなくなりました(民法第382条改正)。抵当権者に
   よる増価加競売はする必要がなくなったし、これに伴い買い取り義務もなくなりまし
   た。

 (3)一括競売(民法第389条)
    土地の抵当権者は、抵当権設定後に抵当権の設定を承諾した土地所有者がその土地
   に建物を建てた場合においては、建物を土地とともに競売することができる(民法第
   389条)が、優先権は土地の代金にしか主張できないこととなっていました。
   そこで、この土地に抵当権設定後に第三者が建物を建てたときは、仮に第三者に占有
   権原がなくても土地の抵当権者は建物とともに競売に出すことができませんでした。
   勿論、土地の買受人は建物所有者に占有権限がないことを理由に建物所有者に対して
   建物収去土地明渡請求訴訟を提起することは法律上可能ですが、実際上は明渡し完了
   まで時間を要し、訴訟費用も馬鹿にならず結局買手がいないことになり、土地抵当権
   者の利益を損なうことになります。更に、建物収去をすることにより建物の社会的効
   用性が失われることにもなります。
    そこで、抵当権設定後に抵当地に建物が築造された場合は、抵当権設定者以外の者
   がその建物を築造した場合であっても、建物を抵当地とともに競売することができる
   ことにしました。ただし、建物所有者が抵当地の占有について抵当権者に対抗するこ
   とができる権利を有するときは、一括競売はできません。
    ところで、抵当権設定時に抵当地上に存在していた建物が抵当権者に対抗できる占
   有権原を有していないときはどうであろうか、一部の意見に建物はいずれにせよ収去
   を免れないし一括競売しても建物所有者には大きな不利益はないとして一括競売でき
   ると主張しています。しかしながら抵当設定時に建物が存在していることを認識して
   いるので、抵当権設定後にその土地に建物が建てられた場合と同列視はできないと思
   われますが如何でしょうか。

 (4)短期賃貸借を廃止しました(民法第395条)
    これまでは、抵当権設定後に賃借権を設定した賃借人は民法第602条に定める期
   間(例えば、土地については5年、建物については3年)内であれば抵当権者に対抗
   できることになっていた(同法第395条)。このことは本来抵当権に遅れる賃借権は
   抵当権実行により消滅するはずであるが、それでは不動産利用権が阻害されるとのこ
   とで少なくとも短期賃借権だけは保護しようとした趣旨であったのです。ところが、
   実際には濫用的賃借権の裁判事例が目立つところで、具体的には、短期賃貸借の存在
   が抵当不動産の価格を低下させて抵当権者に損害を与えること、又、抵当権者はその
   損害を予め予測して貸付額を下げることにより、ひいては不動産の担保価値の下落と
   なり有効利用が妨げられる結果となっています。更には安値競落を目論むため、又は
   立退き料を要求するため反社会的勢力と結託して短期賃借権を利用する等の弊害があ
   ることを指摘されてきたのです。更に、短期賃貸借制度は賃借人保護の観点からして
   もその合理性が乏しいのではないかとの指摘もあります。それは実際にこの制度の保
   護を受ける例が少ないし、例えば競落人の代金納付の時期後に賃貸借契約が満了すれ
   ば保護され、代金納付前に期間満了すれば保護されないという偶然の事情によりその
   保護が左右されることになります。更に保護を受けられるとしてもその期間は極めて
   短いこと等が指摘されています。
    そこで、民法第395条は次のように改正されました。
     @ 抵当権に対抗することができない賃借人で、且つ、次の要件を具備する者は
       建物競売による買受人の買受時から6ケ月間の明渡猶予期間を与えられた。
       1. 競売手続き開始前より使用収益している者
       2. 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人より競売手続き開始後に賃借
         のうえ使用収益する者
     A 但し、買受人が買受後に、1月分以上の使用収益の対価についての支払いを
       相当期間を定めて催告し、その支払いがないときは第一項を適用しない。

    なお、この6ヶ月の期間については当初法案提出時は3ヶ月であったところ衆議院に
   おいて6ヶ月に修正されたものです。元々この期間については「担保・執行法制の見直
   しに関する要綱中間試案」の段階では2ヶ月説で、答申時は3ヶ月でしたが、中間試案
   の補足説明では引越準備期間として1ヶ月程度とすべきとする意見や、児童・生徒の学
   期途中での転校を避ける等の趣旨から6ヶ月程度とすべきである意見等が記載されてお
   りました。この期間は結局2転3転して6ヶ月に収まったということになります。
   更に、法制審議会の法務大臣に対する答申時では第2項として「抵当権の登記後に登記
   された賃貸借は、これに優先するすべての抵当権者が同意し、その同意について登記が
   なされたときは、第1項(当時は、抵当権に後れる賃貸借は、その期間の長短にかかわ
   らず、抵当権者及び競売における買受人に対抗することができないものとする)にかか
   わらず、抵当権権者及び競売における買受人に対抗することができるものとする。」と
   まったく別異の内容の条文でした。法案提出時の条文は、この第2項がなくなっていま
   した。ところが、法律としてできあがった時には第2項が復活しましたが、別内容の条
   項(前述のAの内容です)となってしまいました。このように珍しく対決条文になった
   ほど短期賃借権存廃については賛否両論が激しかったことを物語っていると思います。

 (5)根抵当権
    元本確定事由の一つとして現行民法第398条ノ20第1項第1号は「担保スベキ債
   権ノ範囲ノ変更、取引ノ終了其他ノ事由ニ因リ担保スベキ元本ノ生ゼザルコトト為リタ
   ルトキ」と掲げているが、この条項は経済界には大変不評でした。即ち、「取引終了」
   、「担保すべき元本が生じなくなったとき」とは何時かについて明確でない場合が少な
   くないため無用の紛争が生じていました。更に、不良債権処理に関して根抵当権により
   担保された債権を迅速且つ円滑に処理するためには、不確実な元本確定事由を排除し簡
   便、確実に元本を確定すべきであるとの経済界の要請が強かったのです。経済界の要請
   で成立した特別法として「金融機関等が有する根抵当権により担保される債権の譲渡の
   円滑化のための臨時措置に関する法律」という長ったらしい名称の法律があります。
   その第3条に金融機関等が特定債権回収機関に不良債権を譲渡するときに、担保すべき
   元本を新たに発生させない旨の書面を債務者に通知(実務的には終了通知と称していま
   す)することにより元本を確定させる旨の規定があります。
    今回の改正は、金融機関等以外の根抵当権者でも、元本確定期日の定めがある場合を
   除き、いつでも元本の確定を請求することができる旨を規定し、現行民法第398条ノ
   20第1項第1号を削除しました。更に、登記手続きにおいても、根抵当権者の請求に
   より根抵当権の元本が確定した場合、元本確定の登記は、根抵当権者が単独で申請する
   ことができることとしました。前記の臨時措置法が「債務者」につ通知としていました
   が、今回の根抵当権者からの通知の相手先は「設定者」即ち「所有者」へ通知すること
   になりますのでご注意ください。これにより、不良債権処理は加速するものと思われま
   す。しかしながら、実務的には、この元本を発生させる意思がない旨の所謂終了通知は
   依然として設定者(臨時措置法時代は債務者へ)へ送達されなければならないのです。
   そこに更に問題点が潜んでいるのです。即ち、設定者へ終了通知を出す時点では通常設
   定者は破綻していることが多いと思います。また、破綻した設定者は根抵当権設定登記
   記載上の住所地には既に誰もいない場合が多いですよね。破綻した設定者が会社である
   場合に会社の登記簿上記載の本店へ送達して届かなかったときは、その会社の代表者の
   住所地へ送達するのが次の手段となります。ところが、破綻した会社の代表者も住民票
   を移動せず行方不明の場合が結構多いのです。破綻した設定者が個人の場合も同様です
   。このように送達できないときは相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に意思送達の公
   示送達の申し立てをしなければなりませんし、非常にか時間がかかることになります。
   終了通知を出す場合には、このように根抵当権者の一方的意思表示で元本確定ができ登
   記まで完了できることが難しいケースが多くなり不良債権処理が円滑処理されていると
   はいえない場合が結構あります。そこで、終了通知は根抵当権設定の登記簿上の住所地
   へ宛てて送達すれば、到達されたものとみなすとすれば、不動産流動化はより迅速に促
   進されるものと思われますし、判例上、滌除について、抵当権者が第三取得者へ競売実
   行通知をなす場合には、第三取得者の登記簿上の住所地宛通知を出せば十分である旨判
   示しております(大決昭6.12.11民集10.1219.新版注釈民法(9)452頁)。 ところが、現
   在の登記実務では送達ができたことを証明できない限り(それも、公的な証明書でなけ
   れば受付しておりません)単独登記申請を認めていません。このような細かい点ですが
   ちょっと手を加えれば処理が加速することになるのですが・・・・・

   1. 不動産収益執行制度の創設(法第180条を新設)
    担保物権に関する改正のところの不動産収益に対する抵当権の効力・不動産収益執行
   等で多少述べておきましたが、賃料に対する抵当権の効力が及ぶ範囲について、民法第
   371条1項但書(差押後から及ぶ)の限度で及ぶとする見解と、民法第304条を根
   拠に賃料に対する物上代位が認められると解する見解とが争われていましたが、実務で
   は簡易迅速な債権回収の要請の下に抵当権者による賃料に対する物上代位が認められて
   いました(最判平成1.10.27民集43.9.1070)。
   ただ、賃料に対する物上代位は、地代家賃の中には管理費用相当額も含まれている場合
   があります。これについても差押さえがされることが多く見受けられます。管理費が入
   ってこなければ、債務者或いは建物管理者は適切な管理行為に不熱心となるのが普通で
   しょう。詰まるところ建物価値の減少につながることになります。このような問題点が
   指摘されております。或いは、複数の抵当権者が存在するときに、競売手続きのように
   順位に従った配当ができないという問題点も指摘されていました。

    そこで、強制管理類似の制度として不動産収益執行制度が創設されたものです。昭和
   55年の民事執行法制定当初よりこの制度を導入すべきとの意見があったとのことです
   が、実体法上抵当権の効力が不動産収益には及ばないと解されていたことから抵当権の
   効力に関わる実体法規定の整備をすることなく強制管理類似の手続きを設けることはで
   きないとの考えで認めませんでしたが、今回、民法371条を改正の上この制度を創設
   したものです。

    この制度を創設するについて、抵当権の実行としての競売の申立てによる差押後売却
   までの間において抵当権者が不動産の収益から優先弁済を受けるための手続きとすべき
   との意見がありましたが、改正法は不動産市況の低迷を背景として不動産を売却せずに
   収益から債権回収を図る需要にこたえるために従来の競売と並存して別途に申し立てる
   ことができるようにしました。然しながら、従来の物上代位の手続きによる賃料等の差
   押さえ方法はこの制度に吸収すべきとの意見とは異なり、これも並存することになりま
   した。

    そこで、実務上は改正法の下でも、簡便な執行手続きとして物上代位による差押さえ
   は依然として使われるのではないかと思われます。となるとこの不動産収益の申立ては
   どのような場合が想定されるかというと、@大規模な賃貸用ビルで賃借人の把握が困難
   な場合、A賃料不払いや用法違反などの理由で賃貸借を解除する必要がある場合、B賃
   貸人を入居させる場合、C管理人を選任する費用を払うだけの実益がある場合等が想定
   されるかと思います。

    担保不動産収益執行の手続きは、従来からある強制管理の手続きを準用しております
   (法188条)。

    それでは、手続きが競合したときはどうするかという問題が生じますが、改正法は法
   第93条の4でこの問題を解決しています。即ち、収益執行(強制管理又は不動産収益
   執行)の開始決定の効力が賃借人等に生じたときは、既になされている賃料等に対する
   (仮)差押命令はその効力を停止することにして、以後は収益執行手続きの下において、
   実体法の順位に従って配当になります。但し、既に債権差押手続きで配当要求申立期限
   後であれば、収益執行管理人には取り立て権限はなくなることになります。

   2. 不動産の競売手続きの改善
    (1) 保全処分の改正・・・・これまでの経緯
      @ 昭和55年新設
       「売却のための保全処分」(法55条)
       「買受人のための保全処分」(法77条)
      A 平成8年改正
        A 「不動産競売開始決定前の保全処分」(法187条の2)の新設
        B 上記55条、77条に関して、「相手方の範囲」を「債務者(所有者)」
         限定より「不動産の占有者」へ拡大
        C 執行官保管命令の発令要件の緩和
      B 平成10年改正
       「買受の申出をした差押債権者のための保全処分」(法68条の2)新設
        発令要件⇒「売却を困難にする行為」と要件緩和
             不要「価格減少行為」
   以上、レジュメぽく書きましたが保全処分には上記のとおり4種類が用意されているこ
   とになります。そこで、更に今回の改正がなされ競売実務における執行妨害への対応方
   法がより拡大されました。
    また、いずれの「保全処分」の内容は、債務者または不動産の占有者に対して価格減
   少行為を禁止し、又は一定の行為を命ずることになります。

    
(2) 平成15年改正⇒債務者・占有者に対する各種保全処分の強化
      (法55条関係)

      @ 第一に、保全処分の緩和であります。売却のための保全処分(法55条1
       項)と競売開始決定前の保全処分(法187条の2第1項)について、何れ
       も保全処分の発令要件が「不動産の価額を著しく減少する行為又はおそれが
       ある行為(所謂、価額減少行為)」としていましたが、この要件が厳しすぎ
       として占有者の排除が困難な場合がある旨の指摘がなされていました。
       そこで、改正法は単に価額減少行為があれば足りるとしました。

      A また、執行官保管命令の要件も緩和されました。即ち、改正前は法55条
       1項の禁止・行為命令違反、又は、1項の保全処分では著しい価格減少行為
       を防止できると認める特別の事情があるときと限定されていましたが、改正
       法は1項の保全処分と同じ要件で発布できるようになりました。
       具体的には、執行裁判所が債務者・占有者等の不動産に対する占有を解いて
       執行官に引渡すことを命じ、執行官が占有し保管することを意味します。

      B 相手方を特定しない保全処分の発布が可能となりました。執行妨害事例で
       は占有者の特定が困難である場合が多く見受けられた。そこで今回、占有移
       転禁止保全処分等が発令する際には相手方を特定しないで発令ができるよう
       になりました(法55条の2)。具体的には、執行官が現場に赴いて執行す
       る際に占有者を特定できないときは執行不能になりますが、現実に占有して
       いるものがいた時は、執行官は遅滞なく占有を解いた相手方を執行裁判所へ
       届出なければなりません。
 
      C 公示命令の新設があります。これは、執行裁判所が保全処分を発する場合
       に必要があると認めるときは、当該保全処分の内容を、不動産の所在する場
       所に公示書その他の標識を掲示する方法によって執行官に講じさせることを
       内容とする保全処分を発令することができるようなりました。以前より執行
       官がしておりましたが法律上明文化したものです(法55条1項1号乃至3号)。

      D 「占有移転禁止の保全処分等の効力」の規定を新設しました(法55条1
       項3号、77条1項3号、83条の2)。「売却のための保全処分」及び「
       買受人のための保全処分」については、不動産の占有の移転を禁止すること
       を内容とする保全処分等が発せられることができます。この決定の執行がな
       され、且つ、買受人の申立により当該決定の被申立人に対して引渡命令が発
       せられたときは、買受人は、その引渡命令に基づき、55条等によるその保
       全処分等の執行されたことを知って不動産を占有した者又は知らないで被申
       立人から承継した者に対して不動産引渡の強制執行ができることになりまし
       た。また、保全処分決定の執行後に不動産を占有した者はその執行がなされ
       たことを知って占有したものと推定することにしました。

      
E ところで、「価格減少行為」について、判例上認められた幾つかの行為を
        下記に挙げておきます。
          競売不動産を第三者に賃貸する行為(東京地裁決平3.10.21)
          担保建物の未登記増築部分に区分登記がされた場合(最判平6.5.12)
          暴力団関係者の張り紙や立て看板などによる支配の誇示(東京地決
          平4.10.21)
          競売決定開始前に金融業者が債務者兼所有者から競売不動産を賃借し、
          これを第三者に転貸する目的で占有を開始した事例(東京地判
          平10.3.20)
          債務者・所有者以外の第三者で、差押後売却前に占有を開始したもので
          あっても、執行妨害目的で貸金があると主張したり、高額の立退き料を
          要求して引渡しを困難にする事例(浦和地川越支部平7.2.3)

        そこで、価格減少行為を立証するために
        (1) 現場写真撮影
        (2) 占有者の身元確認・住民登録の有無の調査
        (3) 駐車車両のナンバープレートの確認並びに陸運局での調査確認
        (4) 占有状況がわかる立て看板・表札等の確認及び記録
        を心掛けておいて保全処分申立の際の資料にするための準備をしておくとよ
        いでしょう。

   3、内覧制度の創設(法64条の2)
      世間では不動産を購入する際、特に住宅を購入する際は大体一生に一度でしょう
     から(最近は買い替えがありますが、それはさて置き)土地建物の内部を見てから買
     うかどうかを決めるのが普通だと思います。ところが、今まで競売不動産について
     は内覧が出来ませんでした。そのため建物内部のリスクは購入者が負担していたの
     です。ところで、今回の内覧制度新設により、買受人や債権者には次のようなメリ
     ットが考えられます。@買受申出人は、不動産に関する正確な情報を得ることがで
     き、入札価額も適正なものになるはずです。 A更には、買受申出人の現状把握が
     容易にできるというメリットは入札希望者を増加させる誘引にもなると期待される
     し、処分の促進化につながります。また、公正な内覧を運用するために執行官が内
     覧主催者となりますので、執行官は内覧参加者の確認をしたりして、円滑な内覧を
     妨げる者を排除することができます。
      デメリットとして、これまで内覧ができなかった最大の理由の一つが、占有者の
     プライバシー侵害という問題です。 また、内覧実施の際の秩序維持ができるかと
     か、内覧場所には潜在的な買受申出人が集まりますから談合の温床にならないかと
     いう心配がされています。また、申立債権者に予納費用の加算がどの位になるのか
     も心配です。
      では、内覧の仕組みですが、 @差押債権者の申立により、執行裁判所が執行官
     に対してその実施を命じます。但し、不動産の占有者の占有権原が(仮)差押債権者
     や売却によって消滅す担保権者に対抗できる場合には、その者の同意を必要としま
     す。今回短期賃借権が廃止されますので、実質的には対抗できる者は殆どいなくな
     るでしょうA内覧申立は執行裁判所が執行官に売却実施を命ずるまでに行わなけれ
     ばなりません。B内覧実施命令が出たときは、執行官は売却実施時(具体的には入
     札期間開始の前日)までに、内覧参加申出期間及び実施日時を公告します。C内覧
     参加予定者は書面で内覧申出をします。この予定者の資格で、債務者等買受資格の
     ない者、悪質競売ブローカーなどの売却不許可事由該当者は除かれます。D内覧実
     施の際は執行官が立会わなければなりませんし、参加者の身分に関する証明を求め
     ることもできます。E執行裁判所は内乱実施困難なときは命令を取り消すことがで
     きます。

   4. 明渡しの催告(法168条の2)
      実務上の慣行を明文化したものですが、実務上の経験から行けば明渡しの最終段
     階の手続きで、これを明文化したことは大きなメリットがあります。今までは、明
     渡執行申立をして、執行官と明渡期日の打合せの上、債務者又は占有者の占有する
     建物に赴くのですが、いきなり明渡執行をするのではなく第一回目は明渡しの催告
     をして約1ヶ月の猶予期間を与えて、その間に任意に明渡さなければ、債権者は断
     行申請なるものを執行官に申立た上で第二回目に現実の執行手続きをなしていたも
     のです。尤も、第一回目の催告日に占有状態を確認したり、又は、明渡後の残留物
     がなるべく出ないように動産差押執行をしたりして断行のための準備をすることの
     メリットがあったのですが、逆にデメリットとしては第一回目の催告を機に妨害が
     行われることもあるのです。催告日に明渡執行が開始されたことを知った妨害的占
     有者が断行日までに占有移転をすると新たな占有者には改めて明渡しの債務名義が
     必要になり、そのための時間と費用のロスを強いられることになっていました。尤
     もこれを防ぐためには予め占有移転禁止の仮処分をかければよかったのですが、そ
     のためには保証金の出費を強いられていました。今回の改正で従前より簡便な明渡
     しが可能になったのです。
      そこで、明渡催告の要件ですが、執行官に対する明渡執行申立により、執行官が
     当該不動産を占有している債務者に対して引渡期限を定めて明渡しの催告をするこ
     とになります。引渡期限は催告日から1ヶ月を経過した日(但し、執行裁判所の許
     可により当該日以降を期限とできる)となります。執行官は催告、引渡期限、占有
     移転禁止の旨の公示書を標識掲示により公示することになります。引渡期限の延長
     可能ですが公示しなければなりません。明渡催告の効果として明渡催告により占有
     移転禁止効が発生します。更に、催告後の占有移転につき新たな占有者に対して引
     渡期限までに承継執行文がなくても強制執行申立ができるようになりました。従来
     は、明渡執行に際して不動産の中にある動産は執行の目的外だということで、一旦
     執行官が保管して債務者が受領にこなかったときにはじめて売却することができま
     した。 そのために債権者は保管場所を確保したり、売却まで保管したり、目録を
     整えたり、更に売却により二束三文で買受けて破棄するにも更に出費が重なったり
     で、明渡し完了後も手間暇がかかっていました。そこで、第5項で「執行官は、最
     高裁判所規則で定めるところにより、これを売却できる」として、即時売却ができ
     るようにしました。これにより明渡諸費用と時間が大分軽減されるものと期待され
     ます。